この案件は、現在進行中のもので、私が興味をもってその推移を観察中のものです。
舞台は京都にある「京醍醐味噌」において役員に対して支払われていた役員報酬の額をめぐって税務署が待ったを掛けた、というものです。
税務署は、京醍醐味噌の税務調査をつうじて、2013年から2016年の4年間で、役員報酬21億5100万円とされているが、そのうち18億3956万円は「不相当に高額」であると指摘しました。そして、この結果に基づいて3億8500万円の課税処分を出します。同業他社の役員報酬と比較すると、その金額は高すぎるというわけです。
原告(役員)は、この行政処分の取消しを求めて東京地裁に訴えました。しかしながら、東京地裁の判断は、棄却(原告の請求を却下)でした。
原告側の主張は、おおかた次のようなものでした。
第1に、工場をもたない事業形態を導入した原告のアイデアが大成功を収めたから、それに見合った報酬を会社側が支払ったにすぎない。そして、一般論として、原告レベルの役員報酬の場合は、法人税の割合より所得課税の割合の方が当然に高くなる。そうであるにもかかわらず、税務署が「不相当に高額」であると判断するのは<おかしい>。
第2に、法人税法34条2項の解釈を、税務署が<誤っている>。同条は役員供与のなかで、不相当に高額な部分の金額を損金として認めないという決まりであるが、これは制度を利用して家族経営の個人事業主が「法人成り」し、売上の大部分を役員報酬として会計を処理し(損金として課税対象額を引き下げる帳簿上の操作をし)、節税に励むことを否定するためのものだったはずである。が、原告とその法人の間には、このような節税に励む事情はないので、同条を適用するのは<おかしい>。
ちなみに、会社法では、役員報酬を定款または株主総会の決議で決定することになっていますから、上記の役員報酬を定款または株主総会の決議で了解すれば十分であるはずです。
したがって、課税処分の取消しを求める請求には理由がある、ということになりそうなの
ですが...前述したとおり、東京地裁は原告の請求には理由がないとして棄却しました。
管見の限りですが、こういう案件の場合の税務署の判断基準は次のようになっているそうです。
該当する会社が所在する地域で、比較する企業をリストアップする。
リストアップした中から同種の会社のうちで、売上の2倍から半分となる「倍半規準」で比較する企業を選定する。
選定した会社群の役員報酬の平均値を算出する。
算出した平均値とターゲットの役員報酬とを比較分析する。
ざっと見ですが、どうリストアップするかによっても、また、スタートアップ企業のように先端を走る会社であれば、平均値を優に飛び出ることは多いのではないでしょうか。これを、出る杭は打たれるという・・・わけはないですよね。
細かい技術論なり政策論なりとしては、「日本標準産業分類(JSIC)」を参照したり、全国の国税局と税務署で共有する「国税総合管理(KSK)システム」の利活用などもあるのですが、今回は触れないでおきます。
結局のところは、正しい納税をして欲しい一方の気持ちと、正しいビジネスの展開を阻害しないで欲しい他方の気持ちとが衝突し、法的議論=法的対話をおこなっているという絵が私には見えて仕方がありません。控訴審は年内にであるのではないかと思いますが、それでも最高裁まで進むのではないかなと個人的には予想しています。割と複数の省庁を巻き込んで「日本のこれから」も含む展開になりそうな感覚も少し芽生えています。
どこかで一本、論文としてまとめられた、いいなぁ(願望)。
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